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遥かに仰ぎ、麗しの [詳細]
キャラクター別レビュー。

滝沢司:
凰華女学院分校へ赴任してきた新任教師。物語の主人公。
幼い頃に両親から捨てられて施設で育てられたという暗い経緯を持つ。そしてそんな司を引き取ってくれたのが滝沢家だった。 しかし司は滝沢家になかなか馴染もうとせずにいくつかの暴力問題も起こしてきたが、滝沢家はそんな彼を決して見捨てることはなく、いつも温かく見守ってくれた。 そして長いときを経て漸く彼は滝沢家に心を許すようになり、今では滝沢家を大切にしている。だからこそ彼はどんな人のことも絶対に見捨てないし、不幸な境遇に対する理解もある。 しかし再度捨てられることを恐れ、どうしても他人に対して最後の一歩を踏み切れないという潔くない欠点もある。愛されて、またいつか捨てられるかもしれないことを恐れているのだ。
でも全般的な性格としては熱血漢であり、時には(悪?)巧みもするし、やや無謀なことにもどんどんぶつかってゆく。その点を買われて信頼を得ることもあれば、失敗することもある。

  • 司のキーワードは見捨てない不幸な境遇家族の大切さ。 同時にこれは作品自体のキーワードでもある。

風祭みやび:
凰華女学院分校の理事長兼学院生。
身長やスリーサイズなど、とにかく小さい。
学院の学院生でもあり理事長でもあるという複雑な立場を任されている。初期の性格や言葉遣いはとにかく悪く、お付のメイドのリーダや学院生にたしなめられることもしばしば。 そんな彼女の前に現れた庶民の教師こと滝沢司は理事長である彼女の言うことをなかなか聞いてくれない。 そんな険悪関係にあった二人だったがリーダはみやびの味方でもあり司の味方でもあり、その仲を上手く取り持ってくれていた。
なかなか素直になれないみやびだったが、球技大会や文化祭等の数々の行事を通じて、また司を秘書としてリーダと共に自分のそばに置くことで少しずつ打ち解けてゆく。
そんなときに凰華女学院分校に現れたのが志藤由という新任教師。志藤は風祭と同じく世界に名だたる程の有名な家柄であり、志藤由は実はみやびの婚約相手だった。しかも両親が勝手に決めたという政略結婚の相手。 和解し始めた司と風祭の体裁を守るための政略結婚の選択に揺れるみやび。最終的には学院生と理事長という微妙な立場、風祭家の体裁という厳しい条件下に置かれたみやびのことを司が理解し、 不幸な境遇にあるみやびを最後まで見捨てずにどこまでも付いていくという形で和解する。

  • みやびのキーワードは重責すれ違い兄姉へのコンプレックス。 重責というのは学院生と理事長の両方を務めるという、彼女の年齢には荷が重過ぎる任務。すれ違いというのは尖った性格や言葉遣いのために学院生たちとの間に生じてしまう深い溝。 コンプレックスというというのはよくできた兄姉の陰に隠れてしまうみやびの可哀想な境遇。
  • みやびは「周囲の人間は『風祭の人間』や『理事長』としては見てくれたとしても、『みやび』という一人の女の子としては見てくれない」と嘆いていた。 そしてそれに気が付き、初めて「みやび」として等身大に扱ってくれたのが司だった。肩書きでしか自分のことを見てもらえないのがつらかったんだな。 このあたりはToHeart2小牧愛佳に少し似ている。
  • みやびが司に打ち解けてゆくまでの過程、時間の経過に伴う性格の細かな変化、そのための司の戦略なんかが非常に細かく丁寧に書かれている。シナリオをよく読むと感嘆。
  • メイド部隊が総出でみやびの行方を司に教えてくれたり、その他いろいろ協力してくれたりと、リーダ率いるメイド部隊の活躍が光るシナリオでもある。
  • 司とみやびとリーダの主従関係。どちらが「主」でどちらが「従」とも言い切れない複雑な関係。……のように見えるが、それは言わば「対等」ということなのだろうか。
  • > 「なんというか、凄い子だ。他にうまい表現が見つからない」
    みやびのことなんだが、まさにその通りだと思う。名言だ。

鷹月殿子:
放浪癖のある天才少女。
彼女は気分次第、或いは嫌いな先生の授業には出席しなかったりという放浪癖がある。そしてそんな自分の本当の姿を誰も見てくれない、わかってくれないと思っていた。 しかし滝沢司は他の教師とは違い、そんな殿子に付き合い自分を見てくれる人だと認識し、教師と生徒という関係ではなく家族・親子という精神的な関係を望み、司もそれを受け入れた。
殿子は家庭に大きな事情を抱えていた。鷹月家の後継者として一人娘の殿子に両親は期待をかけている。しかし殿子自身はそんな伝統や格式に拘るのは嫌で、自分の思った通りに生きてみたいと考えている。 そしてそんな殿子をもてあました両親は凰華女学院分校へ彼女を幽閉した。ここにいる限り自由な人生はあり得ない。 だからといってここを卒院しても鷹月家の後継者問題に巻き込まれるだけであり、どちらにしても自由はない。 でも後継者問題に巻き込まれて自由な人生を奪われることをどうしても嫌い、どうせ真の意味での自分の理解者などいないと信じて疑わない殿子は、 凰華女学院を卒院せずに小さな自由の中で過ごすためにも、授業に出席せずに高得点や単位を取得せず、自由に学院内を放浪(散歩)していたのであった。

  • 殿子のキーワードは伝統と格式への反発自由
  • 伝統への反発心は親子の面談シーンで直接的に描かれている。自由については司が見つけた飛行機の建造に協力するという形で隠喩されている。 飛行機は空を飛ぶもの。しかし見つけた飛行機はたいへん古いものでありとても飛ぶようなものではない。そこで飛行機のパーツや設計書を見つけた司は本物の飛行機を一機作ることを考えた。 飛行は失敗に終わるが、地上すれすれとはいえ、たしかに離陸はしたのだ。殿子が学院内の高台からいつも仰ぎ見ていたあの大空へ向かって。 それでもまだ諦めない司の姿はすごいと思った。一度でダメならばもう一度作ればいい。 そのとき殿子は自分の抱えている問題にまだ一度も本気でぶつかっていないことを思い出すというのもなかなかよくできたシナリオだと思う。 エピローグの最後に近い部分だが、そういう話の持って行き方をするとは思わなかった。単に自由の象徴としての大空と飛行機を描いたシナリオではなかった。 司は殿子に「諦めない不屈の精神」というものを同時に教えたのだった。
  • 司はいつの間にか泳げるようになっていた。暁先生に教わったということだが……そういえばそんなやりとりもシナリオの中で一瞬だけ見かけたような気がする。 そんなシナリオの布石もよくできているシナリオ。司が飛行機の設計図を手にするための戦略なんかも実に巧妙で、よく書けている。

八乙女梓乃:
対人恐怖症のお嬢様。
怖がらずに触れることができるのは家族と、他にたった1人心を許した殿子だけ。そんなときに現れた新任教師、滝沢司。 彼は殿子の心をあっさりと開いてしまい、「自分だけの殿子」を自分の手元から奪ってしまう可能性のある敵だった。
そこで彼を陥れようとして企てた数々の妨害工作。しかしそれらはことごとく失敗に終わる。人の中でまともな生活をしたことのない梓乃は、小さないたずらさえも満足に成功させることができないのだった。 しかしこの司への憎しみの気持ちが意外な方向へと展開する。彼に約束を取り付けて汚名を着せて殿子の傍から追い払おうとした梓乃だったが、そのためには司と2人きりで約束を取り交わし、かつ会うことが必要だった。 それは対人恐怖症の彼女にとって最も苦手なことだった。
そんなときにある事件が発生し、梓乃は司に救ってもらう。その頃から梓乃に変化が起き始めた。司を追い払うことに一生懸命になっていたはずなのに事件をきっかけとして彼のことを信頼するようになったこと。 そしていつの間にか友達や司のそばにいることができるようになっていたこと。梓乃は対人恐怖症故に気付いていなかったが司はいつでも自分のことを見てくれていて、そして助けてくれた。 そのことに気付いた梓乃は学院内行事等を経て積極性を持ち、対人恐怖症の第一の障害と認識していた司との壁を乗り越え、手を繋ぎ合い、本当の友達と本当の幸せを手に入れることに成功した。

  • 梓乃のキーワードは対人恐怖症変化への恐れ、(殿子に対する)独占欲
  • おもしろい。司を嫌う一心で逆に行動的になり、対人恐怖症を克服してゆくという観点がとても興味深かった。シナリオとしてはおもしろいほうだと思う。
  • なかなか近付くことのできない梓乃と司。そこには対人恐怖症という障害があり、お互いの認識の勘違いがあり、司の過去の暗い記憶があり……そんなこんなで2人の関係は一進一退。 シナリオはあまり長くせず根幹部分を率直に訴えてほしいと思う自分だが、こればかりは違う。これは時間をかけてじっくり表現するからこそわかる味だ。
  • 梓乃の努力、そして強さ。感動した。途中から180度ひっくり返った司への認識を正しく見つめ、それを伸ばすように不器用ながらも努力している様がよく描かれている。
  • > 「梓乃、しょうぶしたぎっていうのはある?」
    殿子は梓乃に何を言っているんだ……。わからないでもないが……まったく。
  • > 「生きろ梓乃ッ!!
    >  お前が掴んでるのは僕の手なんかじゃないっ!!
    >  お前の人生なんだぞっ!!」
    崖から落ちかけた梓乃に手を伸ばし、彼女の手を掴んだ滝沢司。 対人恐怖症の彼女は他人の手を掴むことはできなくても自分の人生ならば掴むことができるかもしれないという司の新たなる認識。そして梓乃を救い出す。名場面。
  • 久しぶりに本当に涙を流して堪能したシナリオだった。素晴らしい。特に対人恐怖症の梓乃が司と手を握り合うシーンには感動。 それがいったいどれほどたいへんなことか。どれほどすごいことなのか。CGの意味の深さを知った。また梓乃を救うシーンの司の人間魂は見所。格好いいぞ。

仁礼栖香:
真面目で不器用で「家」を大切にする女の子。
栖香は以前の学校で少々問題に巻き込まれそうになり、悪い噂も立ち始めたので凰華女学院分校へ転入してきた。 その性格は真面目かつ厳格で陰では通称「寮の標準時」などと呼ばれていた。またその厳格さと不器用さもあって学院内には友達が非常に少ない。 栖香は辺鄙な場所にある凰華女学院分校へ転入させられたことを「両親に捨てられた」と考えていた。それは以前の学校で問題に巻き込まれるなどという、家名に関わる不祥事を起こしたという理由で。 さらに凰華女学院での面会日に両親から「これからは1人で生きていけ」と言われたことで、両親に捨てられたことを確信する。
しかしその後、栖香にはお見合い話が持ちかけられる。それは資産家とのお見合い話で、それを受ければ傾きかけた仁礼家を救うことができるとも言える内容のものだった。 両親に捨てられたと思い込んでいた栖香だが、「家」を大切にする彼女の性格から彼女は縁談を承諾した。これで仁礼家の長女として「家」の役に立てるなら……と。
彼女にとって諦めようとしても諦めきれない「家」。しかし栖香を捨てたはずの両親が何故今更になって栖香に縁談を持ち込んだのかと訝しく思った司は、栖香の両親に会い、真実を確かめる。 両親は栖香を捨てたのではなかった。転校させたのは悪い噂の中では娘が幸せな暮らしを送れないと思ったからであり、「1人で生きろ」と言ったのは仁礼家の経済事情が傾き始め、 両親が経済的に栖香の面倒を見てあげられなくなるという非常時を考慮してのことだった。 栖香が望んでもいない縁談を受けたと知った両親はすぐにそれを断り、栖香という大切な娘を自分の手元に残し、司に託すのであった。

  • 栖香のキーワードは家族内の誤解不器用美綺との対立とコンプレックス
  • シナリオの途中でわかることだが美綺は栖香の姉。でも仲良くなりたいのに不器用な栖香は美綺と上手く接することができずに寂しく過ごしていた。 それは美綺の両親の母体である「AIZAWA」が仁礼家を潰そうとしているからであった。学院内での面会日を繰り返し描写することでもその様子はよく表されていたと思う。 さらに以前の学校で事件に巻き込まれそうになったこともあってやや人間不信。 また友達が少ないこともあって真面目や厳格といった自分の性格だけを信じてひとりきりで強がって生きている様もよくわかった。
  • 栖香は一時、勘違いをしていた。「司と結ばれることで家をはじめ、他のことを全て吹っ切れる?」と。でもそれは違う。自暴自棄になっただけであった。 冷静さとそれを失う時期とが繰り返しやってくる描写は栖香の不安定性をよく描き出していると思う。
  • 最初は何がキーワードなのかよくわからないシナリオだった。重要な事柄が判明するのは意外とシナリオの後のほうだ。その意味では梓乃シナリオなどよりも掴みどころがないかも。
  • 混乱すると時々飛び出す栖香のマシンガントークは聞きどころ。おもしろい。
  • 栖香って夜は下着だけで寝るんだ……あの真面目な栖香が。そういうところにもちょっと惹かれた(?)。
  • エッチシーンが意外に多い。

相沢美綺:
一見いいかげんだが、友情と信頼をとても大切にする少女。
世界の果てにでも辿り着いたかのような顔をして落ち込んでいた滝沢司に声をかけた少女。しかし、学院内での彼女の素行はあまり良いとは言えるものではなかった。 ときどき学院を脱出してお菓子を調達しに行ったり、快活故に品行方正でなかったりと、およそお嬢様らしくはなかった。
そんな彼女が凰華女学院へ入学した真の目的は「妹に会うため」だった。初めのうちはわからなかったが、やがてその妹は栖香であることが判明。 でも美綺の両親の経営する「AIZAWA」(不動産)が仁礼家を買収しようとしていることもあり、両者の仲は簡単には進まない。しかし、美綺が両親を説得することで仁礼家の買収計画を中止させ、美綺と栖香は和解する。
活動的な美綺は学院の裏山に隠された隠し地下道のことも知っており、本校系・分校系の学院生を総動員させて学院の裏山にある要塞基地探検を実行する。 この要塞基地は凰華女学院内の通称「開かずの扉」に繋がっており、かつての風祭家の避難所であった。

  • 美綺のキーワードは友情信頼人望。「人望」という言葉についてはシナリオでは触れられていないが、 たくさんの学院生を集めて一大計画を成し遂げてしまうあたり、十分な素質があると思う。或いはたくさんの学院生の友情と信頼を得た結果が彼女の人望だという考え方もある。
  • 凰華女学院のメインキャラクター・サブキャラクター・本校系学院生・分校系学院生を問わず全てのキャラクターが関わってくる、ある意味壮大なシナリオである。 それは彼女の人望故に実現できたことだと思う。しかもそれを通じて本校系学院生と分校系学院生の間に少なからずあった確執を解消してしまい、「ときにはみんなでひとつのことに打ち込む楽しさ」を教えてくれた。 ここにこそ彼女の真の価値が見出される。
  • 人のことを気にかけ、また努力家でもある彼女の姿は尊敬に値すると思う。自分は一生かけても彼女にかなうだけの人物になれる自信がない。
  • 「わるふざけ」って「悪巫山戯」って書くんだ……知らなかった。読めないよ。
  • 美綺は他の分校系キャラクターのシナリオでも大活躍。その活躍ぶりはぜひ見ておこう。

榛葉邑那:
世界を動かすともいわれる大手企業集団「陽道グループ」総帥の孫娘。
「陽道グループ」の総帥、蘆部源八郎は亡くした妻の面影を孫娘に見出し、重ねた。彼女は他の家族からは隔離され、彼に調教されるような生活を送っていた。 そして大権力者である蘆部源八郎に逆らえるものなどひとりもおらず見過ごされていたが、 あるときそのことがマスコミに流出しそうになり、それを見兼ねた彼女の家庭教師の李燕玲は彼女を連れ出し、凰華女学院分校へ幽閉した。10年以上にも渡る長い、長い幽閉生活である。 そして問題を抱え卒院できないものが集まる寮の3階へと住むことになった。彼女たちは通称「ゲスト」と呼ばれる。
その一方で滝沢司は邑那の兄を名乗る鹿野上渉に出会い、彼の「妹を救い出したい」という気持ちを聞かされることになる。 しかし、邑那の兄ということは彼もまた「陽道グループ」の関係者である。また李燕玲も同じく「陽道グループ」の関係者であり、彼らは敵対する関係になった。 そこに渦巻いていたものは余命短い蘆部源八郎の後継者争いと「陽道グループ」の壊滅・再建という膨大な企業問題であった。 そして邑那もまた李燕玲とともに数々の企業を崩壊・再編させるという大事業を行ってきた、そんな隠れた一面を持つ人間のひとりだったのだ。

  • 邑那のキーワードは歪んだ愛情人の多面性友愛権力闘争
  • なんというか……内容が難しかった。経営・経済を専門とする人にとってはそうでもないのかもしれないが、自分にとっては難しいというかややこしく、シナリオの理解に苦しんだ。
  • 幽閉されている邑那が企業闘争の策略家であり、密かに活動していたことに驚き。
  • 権力闘争もそうだが、歪んだ愛情の生み出すものはやはり歪んだものでしかなかった。それがよくわかった。
  • 他のキャラクターよりも選択肢が少し難しいかもしれないが、それほど大変でもない……かな。
  • 様々なキャラクターの隠された素性が判明するシナリオでもある。

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