TALK to TALK [詳細] |
キャラクター別レビュー。
法月みさき:
愛情を教えてくれる下級生。世話をしている犬が裕樹のハンカチを汚してしまったことから知り合い、それからずっと裕樹のところへやって来るようになる。 でも彼女自身は思い切れないらしく、それを見兼ねたクラスメイトの梓が裕樹の教室までみさきを引っ張ってきている。 しかし、ヒトではない裕樹にはみさきや梓のその気持ちがよく理解できない。「好き」という気持ちが。 ある日、みさきの姉の茅乃に会った裕樹は既視感にとらわれ、それ以降茅乃の夢を頻繁に見続ける。それはただの夢ではなく、裕樹よりも以前にテストを受けたプロトタイプ、祥平の思い出だった。 祥平の記憶を引きずる裕樹は茅乃のことが気になって付き合っているはずのみさきに集中できず、不穏な仲になってしまう。 それは姉と裕樹の仲を思って身を引く選択をしたという、みさきの愛情でもあった。 まったくもってどうして良いかわからなかった裕樹だが、茅乃から祥平との思い出をしまいこんで結婚するという話を聞かされて自分の頭が少しはスッキリする。そして今度こそみさきと付き合うことを決意する。 まだよく知らない「好き」や愛情を知るためにも……。
嬉しさを教えてくれる同級生。 他人と関わり合いを持たない少女。それは興味がないから。 ※川瀬一瑠と比較すると? 笑うこともなく、クラスメイトも嬉しそうな表情は見たことがないらしい。 以前の学校では男の子と2人でアルバム製作委員をしていて、そのときの男の子の言葉、 「アルバムが形として残ることは自分が存在していた確かな証明になる」 「いつか自分がいなくなったとしてもこの写真はみんなに見てもらえるから」 それに心を動かされた素直は男の子と一緒に写真を撮り続ける。 いつの間にかその男の子を好きになっていた素直だが、あるとき彼と好きな女性の2人が並んだ写真を撮ってほしいと頼まれてショックを受ける。 そこに現れたのは茅乃、そしてアルバム委員の男の子とは祥平のことだった……。そして祥平は消え、学校は廃校となり、アルバムが完成することはなかった。 でも、 「二人で撮った写真をみんなに見てもらえるように頑張ろう」 それが素直にとっての「二人の約束」。約束を守るために、それからもずっと素直は写真を撮り続けていた。 そして素直は学園祭で裕樹と一緒に廃校になった写真の展示をして約束を果たす。祥平の記憶を受け継ぐ裕樹と一緒に……。 祥平がいたら、きっと嬉しいと言ってくれることだろう。裕樹はそう思った。 相手のために動ける喜び、自分のために動いてくれる嬉しさ、それを裕樹は感じることができた。 素直にはもうひとつ、約束を守る理由があった。それはいじめられっ子の素直に彼……祥平だけはいじめるでもなく、守るでもなく、普通に接してくれたから。 普通にして普通の子と一緒に普通の生活を送ることのできなかった素直にとって、それはとても嬉しかった。 だから素直の中でアルバムの完成は祥平との大切な約束、絶対に果たすべき大切な約束になった。 学園祭を通じて素直は裕樹に惹かれていき、態度も少しずつ打ち解けていく。そして裕樹も素直のことを放っておけずに積極的に展示の準備をしたり、 なにも自分が得をするわけでもなく損得と快・不快の天秤の理屈では通らない行動をいつの間にか始めていることに気づく。ヒトではない裕樹になんらかの感情が芽生え始めた。 だが、素直は伝えられない、裕樹は自分の気持ちがわからない……なのですれ違いのまま中途半端な関係を続けていたが、祥平に関わるちょっとした事件をきっかけにお互いを「好き」だと言えるようになる。 今までは伝わらなかった気持ちが伝えられて、そして届くということの嬉しさ、気持ちが重なる喜びを裕樹は知り、素直は再認識した瞬間だった。
大竹冴子:
楽しさとオリジナリティを教えてくれる同級生。クラスメイトの冴子は下手なのに誰にも内緒でストリートで歌っている。歌っているのはうまくなるためではなく、大好きだから。楽しいから。 その「大好き」にはもうひとつ対象があって、音楽が大好きなのと同じくらい他人を楽しませることが大好き。 普段も明るく性格だし、感情表現の薄い裕樹に対してお祭りや音楽の楽しさを教えてくれようとしたりと行動に惜しみのない性格。 或る歌手の歌が瀕死の病人さえも楽しませていたことを知っていた冴子はずっとその人の歌一筋でやってきたが、ストリートでその歌手の歌を歌っているとお客さんから > 「あの人の歌をおまえみたいなヘタクソが歌うな」 と言われてさすがの冴子もショックを受けてしまい、自信をなくして歌をやめることにした。でも冴子の歌に不思議な魅力を感じていた裕樹はその歌手の歌ではなく > 「冴子の歌を聴き続けたい」 と言い、説得する。人を楽しませることが大好きな冴子なんだから、 その人の歌に固執しなくても「冴子らしさ」……その人のコピーじゃない冴子のオリジナリティを聴かせてほしい、と。 それに自分自身がヒトのコピーである裕樹は冴子のオリジナリティが羨ましくもあり、とても魅力的でもあった。 そしてオリジナリティを磨き始めた冴子は、夜のストリートでついにお客さんから初めての拍手をもらうことができた。
瓜生樹里:
不安を教えてくれる上級生。そろそろ受験を控えた樹里は学園祭に参加する意思はなかったが、絵を描くのが好きなこともあり裕樹の提案で絵の展示と似顔絵描きをやることにした。 そして学園祭を大成功させた2人はその後も一緒に帰ったり出掛けたりとなんとなく微妙な関係を続けていた。 樹里のほうは裕樹を好きなんだから付き合える準備はあるはず……だけど2つの悩みがあってそれを言い出せない。 ひとつは進路。遠く離れた学校への進学を希望している樹里は好きだと言った後に離れ離れになって会えなくなるのが怖い。 もうひとつは、目。樹里の目は色を識別できない。だからモノトーンの世界に生きている樹里の絵はいつも鉛筆のデッサンだった。その事実を知られて否定される……自分から裕樹が離れていってしまうのが怖い。 だが日常の付き合いの中からその事実は自然に裕樹に知られてしまう。 それでもそのことを受け入れてくれた裕樹の言葉に樹里の不安は霧消し、これからもお互いがずっと近くにいることを約束する。 ヒトではない裕樹は「言わなくてはいけないけど言えない」という念に悩むことは少なかったが、 樹里はずっとその不安を胸に裕樹には計り知れないほどのつらい毎日を過ごしてきたのだ。
矛盾と寂しさを教えてくれる同級生。 他人と関わり合いを持たない少女。それは失ったときが怖いから。 ※白倉素直と比較すると? クラスの中で浮いている一瑠を見ているのが心配で学園祭実行委員になった裕樹だが、女子の実行委員である一瑠は殆ど手伝ってもくれない。 でも裕樹が声を掛ければ一緒に居残ってくれるし、けがをすれば心配もしてくれるし、なんとなく少しは雰囲気が変わってきたような。 学園祭が終わってしまえば一瑠との接点がなくなることに気がついた裕樹はやや強引に一瑠と付き合うことにするが、しかしそれも「システム」からの指令で一旦引き上げることになり、最悪の形の別れ話になってしまう。 だけど本当は裕樹のことが好きになっていた一瑠は、裕樹がいなくなる直前になって自分のことを話してくれる。 今までに経験してきたつらい別れや失望、寂しさ……もうそんなものを味わいたくなかった一瑠は他人との関わりを絶つことを決め、強がって他人を寄せ付けないでいた。 でもひとりでいることは別れや失望に劣らないくらい寂しいことだった。 一瑠の以前の恋愛相手は教師、そして今回は裕樹……手に入らないものばかりを好きになる運命に戸惑いながらも「帰ってきたら……」という実現性の薄い約束をする。 そしていつしか一瑠のことが好きになっていた裕樹は、そんな一瑠を見て初めての涙を流した。ヒトではないのに……。
荻谷:
希望を教えてくれる親友であり同級生。裕樹が転入したクラスの隣の席に座っている男の子。 一緒に登下校したり、他愛のないおしゃべりをしたり、騒いだり、食事をしたり、他のクラスメイトとの仲を取り持ってくれたり……良くも悪しくもいろいろと面倒を見てくれて、クラスで一番の仲になる。 でもヒトの感情を理解できないと判断を下された裕樹はテストを終了することになり、荻谷にまともな挨拶もできないまま学校を離れることに。 そんなとき裕樹は理由もわからずに携帯電話のボタンを押し、荻谷に電話をかける。夜中の電話に出てはくれなかったが、翌朝にかけてきてくれた電話が裕樹には嬉しい。そう感じた。 裕樹を含めたプロトタイプの管理元である「システム」の人間がやってきたが、しかし裕樹は戻りたくないという自分の中のはっきりとした気持ちに気づき、そして「システム」の人間に対して「戻りたくない」と逆らう。 裕樹が初めて「システム」の人間に逆らった瞬間。自分の気持ちと意思で判断した瞬間。 裕樹は「ヒトの感情を理解できるようになった」とは思っていないが、いつの間にか「ヒトの感情を感じることはできるようになった」のかもしれない。 「システム」に戻った自分はどうなってしまうのか。そんな不安もたしかにあるが、それと同時に、 「もしかしたらまたここに戻って来られるかもしれない」 「また荻谷と楽しい生活をしたい、できるかもしれない」 そんな不確定な未来を前向きに受け留める希望を感じていた。
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