シナリオ(キャラクター)別レビュー。
最後の警告。このページには多くのネタバレが含まれるので、そこんとこ、よろしく。
泉晴太:
主人公。日本からランドロークへ行く交換留学生。
帯広とランドロークを結ぶ「ゲート」へ向かう途中で力尽きそうになるところをゆめに助けられる。
家族の雨音と六花は先にランドロークへ行っており、交換留学生としての晴太はそれを追う形となったのだが、既存の「ゲート」へ向かうだけで何故そこまでの状況に陥ったのかは不明。
ランドロークへ到着後は全寮制のトリシア学園で唯一自宅から通学することになり、ティエラ・リコ・シオンと出逢い、彼女らの謎とともにランドローク自体の謎へ深く関わってゆここととなる。
- ゆめとのシナリオでは明るく楽しい学園生活がメインだが、最後にはゆめ自身の秘密に挑むことになる。詳細はトゥルーシナリオを参照のこと。
- ティエラとのシナリオでは主に彼女の悩みを解決するための手段を講じることになる。
- リコとのシナリオでは欠落している彼女の自信を取り戻し、彼女を一人前の魔法使いにすることを目指す。
- シオンとのシナリオでは彼女自身の秘密と一般の女の子の在り方についてがメインとなる。
- 六花とのシナリオでは彼と彼女の不思議な経験と現状の秘密を探り当てることがメインになる。頭脳明晰な彼女だが、ランドロークや魔法についての講釈はこのシナリオ以外でのほうが際立っている。
- どのシナリオにおいても最終的には相手の女の子と一緒にいるためにトリシア学園の編入試験を受け、合格を果たすところに彼は見所があると思う。日本人街の日本人学校ではなく敢えてトリシア学園を選択している。
忘れられがちな点だが、こういった点にも注目してキャラクターや作品をきちんと評価したいところだ。
春野ゆめ:
泉晴太と同じく日本からランドロークへ行く交換留学生で同級生。
口癖は「~な女、春野ゆめ、よろしくぅ☆」だ。また、リコのことがとても気に入っているようでたいへん可愛がっているが、すぐに彼女の胸のサイズの話になるため、リコとしてはうれしいのかどうか。
彼女は交換留学生という機会を非常に満喫しておりとても楽しそうに毎日を過ごしているが、なんとしてでも魔法を使ってみたいらしく、そこに非常に執着する。
とはいえ、明るいムードメイカーであることに変わりはなく、リコを交えた初めての海水浴体験を計画したり、日本人街のゲームセンターへ赴いて楽しんだり、寮での日本茶屋の企画・運営に積極的に取り組んだり、
ランドロークの森へ出掛けたり、実に毎日が忙しく――それ故に周囲も忙しいのだが――いつでも周囲に明るい楽しさを振りまいていた。
そんな彼女が魔法力の有無を判定できる機会をついにモノにすることができ、試してみると……なんと非常に大きな反応があった。それこそ魔法力を有する人だけがもつ魔法力を受け留める「翼」が見えるほどに。
そのとき行方不明若しくは既に死去したと思われる父親の姿をイメージとして見たゆめは、父親を自分の手で救いに行くことを決意した。
自分の本当の父親ではないが、学者でもありランドロークを調べていて彼女の相手さえまともにできなかった父親。彼女の決意は固かった。
- この作品の登場人物は家族関係が普通ではない人たちが殆どだ。
- 晴太には両親の記憶はなく、実は妹の六花に拾われたというのが事実。
- ゆめはいわゆる「拾われっ子」で本当の両親を知らない。
- ティエラは由緒正しき家柄の出身のお嬢様のようだが、それ故に家族とのコミュニケーションが十分であったかどうかは疑わしい。
- リコは両親のことを知らず、他人である魔法使いの師匠の下で育った。
- シオンは生い立ちが不明な「魔法兵器」と呼ばれている。
- 六花は早くに両親が死去していて今は従姉の雨音の下で晴太と共に暮らしている。
しかし、だからこそこの作品は成り立っているのかもしれない。詳細はトゥルーシナリオを参照のこと。
- ゆめは性格の明暗が実にハッキリとした子だ。元気なときは元気に明るく、落ち込むときは暗く沈んで。その差は表情や台詞によく現れているのでキャラクター作りとしてはとてもよくできていると思う。
- 様々なイベントを巻き起こすキャラクターだけあってシナリオはちょっと長め。でも作品の理解を深めるためにもここはじっくりとよく読んでおこう。
ティエラ=モレーニ:
非常に強い魔力を持つトリシア学園の上級魔法使い。
お嬢様育ちで多少わがままな面も見られるが、基本的には明るい性格。ただ、お互いに良い関係を築くまでに時間が必要なのかもしれない。
彼女は大きな魔法力を受け留めることのできる非常に巨大な魔法の「翼」を持っていたが、これが「呪われた翼」と忌み嫌われ、ずっと彼女のコンプレックスとなっていた。
「翼」が「呪われた翼」と呼ばれる理由は700年前に起きたというランドロークの人口の7割をなくすという大惨事を引き継ぐものとして見られているからだ。そこで彼女は地元を離れ、トリシア学園へ進む道を選んだ。
過ごしづらい地元から逃げ出すのではなく、魔法の技術を高めるという目的で。彼女はいつでも逃げることを嫌い、次のことに挑戦するという姿勢(虚勢?)を崩さなかった。
彼女は魔力が強く高度な上級魔法を使いこなせるが、その代わり(なのか?)身体・生命的にも魔法依存度の高い体質を持っている。
そのため魔法力の弱まる雨の日等は(魔法は水に弱い)身体が非常に衰弱し、生きるのがやっとという有様。なので海水浴などはとんでもない話だ。
だが雨の日の翌日は非常にハイテンションになるという「雨の反動」があり、このことで彼女の意図とは無関係にお祭りを楽しんだりすることができてしまう。
しかし不便な体質であることはやはり否めないので、彼女自身も陰ながら体質改善のための努力を怠ってはいなかった。
- 彼女の口癖は「紛い物」。
本当に近くにいてほしいときに助けにならなかった家族を指す言葉のようだが、それ故に疑心暗鬼に陥り、自分の周囲に存在するものを全て「紛い物」扱いしようとする。
地球との異文化交流のために立てられた神社も本物の神様のいない「紛い物」、果ては晴太のティエラを思う気持ちさえも実は「紛い物」で本心ではないのではないかと……。
その結果として生まれるものは何か? それに気がついたのはシナリオを読んで少し経ってからだった。彼女は身の回りのものを「紛い物」として排斥する結果、孤独だったのだ。
- 「上級魔法」とは主に火の魔法を中心とした、ランドロークに存在する魔法力を利用した魔法。一般に認識されている魔法はこの「上級魔法」である。
これに対して「民生魔法」というものがあるが、これらの魔法にはどうやら個人の特性が関連しているらしく、使えない者が使えるようになることはほぼ不可能だと思われる。
- ティエラはちょっと自信過剰で怒りっぽいところがあるのが個人的には惜しい。そのあたりがもう少し柔和であればかなり気に入ったかもしれないのだが……。
- 晴太と打ち解けるのが意外に早かったのがなんとなく拍子抜け。もっとてこずるかと思ったのだが。
- 美貌と力はあるが、なんでもすぐに魔法で解決しようとするのはあまりよくありませんよ(苦笑)。
- 盗賊のメイヤ=レノーラのことを「どこかで見たような気がする」と言っていたが、あなたの家のかつてのメイドの1人ですよ。しかも、大切なお宝を盗まれていますから。気をつけましょう。
リコフェリア=デュエンデ:
稀有な民生魔法使い。
彼女が生まれるとほぼ同時に死去してしまった母親。その母親の親友でもあり高尚な魔法使いでもあるサミエラ=ヴェルダに預けられた身寄りのない子。
ずっとサミエラの下で弟子として修行していたリコだがサミエラからは一向に上級魔法を教わることができず、結局は上級魔法を何ひとつとして使えるようにならないまま、トリシア学園へ編入してくることになる。
しかし、さすがは高尚な魔法使いの弟子であっただけのことはあり、魔法関連の知識は博学級。全く問題ないものとされ、飛び級扱いでひとつ上の晴太のクラスへと編入されてくる。
そこでも担任のファレス先生の授業代わりに魔法関連の授業を試行する等、彼女の博学ぶりが窺える。
だが、当の本人は上級魔法が全く使えないこととサミエラに教えてもらえもしなかったことを深く心の傷としており、自信を持てずにいる。自分は師匠から捨てられて何も教えてもらえなかったのではないかと。
しかし、それはリコの勘違いであった。サミエラは上級魔法の使い手であり、リコは民生魔法の使い手。特性の違いによりリコに上級魔法を習得させることはほぼ不可能だったのである。
そこでリコが習得できたものは民生魔法の基礎「血行を良くする魔法」と「意思伝達魔法」の2つだった。
でもサミエラの弟子ということもあり周囲からは凄腕の魔法使いという印象を持たれ、その重圧にも戸惑いを隠せずにいた。
そこで晴太はふと思う。「魔法使いは必ずしも上級魔法の使い手でなくてはいけないのか」と。「民生魔法使い」というものがあっても良いのではないかと。
それからリコは民生魔法に磨きをかけるようになり、ついには「血行を良くする魔法」と「意思伝達魔法」のさらに上級である民生魔法「ゲート魔法」を手に入れることにより、自信を取り戻すことになる。
そして彼女が大切に持っていた魔法使いの自信で成長する木「プリミティブ」の種も少しずつではあるが成長し始めた。
- まずはひとこと。非常にお勧めのシナリオ。感激して泣いた。このレビューの読者にも是非じっくりとプレイしてほしい。
特にリコの中でも3番目に手に入るイベントCGは彼女の温かみがよく伝わってくる素晴らしいものだと思う。深い感慨を持って鑑賞できたお気に入りのCGだ。
- ランドロークの歴史や魔法についての知識はこのシナリオで非常に多く手に入れられる。ここはしっかりと読んで理解しておこう。
- 「上級魔法」と「民生魔法」という言葉があるが、これは「民生魔法」の上をゆくものが「上級魔法」だというのではなく、ただの専門用語だと理解しておくべき。
「上級魔法」と「民生魔法」の間に優劣は存在しない。あのティエラでさえ民生魔法のすごさには驚いていた。
- 上級魔法と民生魔法(リコの魔法)の詠唱について。
上級魔法が700年前の大惨事で活躍した魔法使い――いわゆる「二十八賢者」――の称号を詠唱するのに対して、リコの扱う民生魔法は詩の朗読のような形式となっている。
- 上級魔法の詠唱。
> エルーナ・ヴェルダ・エモーラス。ラキシス・アルザス・イル・オリジン。
> キルエータ・スヴェータ・シス・ナルシス。フェルエール・ゾルデ・エンリエッタ。
> ガーラ・ダルダロイ・チュール・ベムル。コンコース・ケルト・モリオーリ。
> サング・カシュカリ・パム・ルーイ。ワング・ミニュサレス・アルディオーネ。
- 民生魔法の詠唱。
> 私の想い、私の気持ち、私の心、私の願い……。
> 私の中の全ての記憶と、私の中の全ての未来が、私の中で出会えるように……。
> 私の全てをその中へ……私の全てが世界の全てと繋がるように……。
> 私に全てを……委ねてください……。
- 詠唱からもわかるように、民生魔法では「繋がる」ということが非常に重視されている。
これは「プリミティブ リンク」という作品名称の「リンク(link;絆)」に相当する。なのでこの作品は民生魔法を基礎として作られていると解釈される。
これはリコが「プリミティブ」という名称の木の種を持っていることにも符合する。そして事実、民生魔法の基本は点と点等を結び、繋げることだ。
- 「血行を良くする魔法」は1人の体内の点と点とをイメージとして繋げてその間の物流を魔法力で増強するもの。
- 「意思伝達魔法」は複数の人たちを点と考えそれらをイメージで結ぶことにより意思やイメージを流して相手へ伝えるもの。3人以上でも使用可能な点において科学の携帯電話よりも優れているといえそうだ。
- 「ゲート魔法」は空間の点と点(地点と地点)をイメージで結び、それらを繋げて行き来できるようにするもの。科学では空間を歪めて距離を縮める「ワームホール」や「ワープ」に相当する。
- リコの静かで控えめな性格は目立った派手さのある上級魔法よりも民生魔法に似合っていると思う。その違和感のなさが彼女の好感度の向上に繋がっていると思う。ゆめが言うには「胸も控えめ」らしいが。
- 「民生魔法使い」というものがあっても良いのではないかというのはプレイしながら非常に強く感じていたので、このシナリオ展開はうれしかった。胸を張って名乗れる立派な魔法使いだよ、うん。
- しかし、「プリミティブの木の種」を持っているあたり、リコもただものではないな。
シオン:
人間の女性の形をした古代の魔法兵器の名残。
……だと言われているが、彼女の姿かたちや性格から窺い知れるに「兵器」とはとても思えない。彼女は自分の素性と生い立ちを知らず、それ故に自分の生き方がわからずに悩んでいる。
普通の人間との接触方法もわからずにいて、妖精の森の中に住みながら森と妖精の番人のようなことをしていた。しかし彼女も自分と周囲の普通の人間を知るためにトリシア学園へと通うようになった。
だが、姿かたちが人間とは異なるシオンは学園のクラスメイトにも簡単には受け入れられなかったのだが、そこは晴太とゆめ、そして担任のファレス先生の上手な導きにより徐々に解消されていった。
そして次の段階として人間(の女の子)の生活や一般常識を知るために泉家へ期間限定で住み込むことになる。いわば「泉家留学」といったところだろうか。
そこでもシオンの知らないことばかりでシオンはともかく、周囲のほうが慌てふためく大騒ぎの生活に。そして人間の女の子としての生活を続けるうちにいつの間にか晴太に対する不思議な気持ちが芽生え始めた。
シオンは晴太に救命されたことがあるので特殊な恩があるのはある意味で当然なのだが、どうやらそれとも異なるものらしい。
そして森の中で光の妖精と対戦中のシオンが苦闘を強いられていたそのとき、少し離れた場所からそれを窺っていた晴太が光の妖精からの強烈な一撃を受けて瀕死状態になる。
そのときシオンはどうしても晴太に生きてほしいと嘆願し、それは「愛情」の芽生えであることを示していた。もうシオンは「魔法兵器」などではなくなった。
- このシナリオのポイントは素性の知れないシオンの謎を解き明かし、人間に受け入れてもらうこと。なかなかシオンに近づこうとする人間はいなかったが、晴太やその周囲の人たちだけは違った。
彼女の呼称(?)である「魔法兵器」という言葉にとらわれずに正面からシオンと向き合って付き合ってゆくこと。
それを考えて頭で理解するだけではなく、実践し、実践し続けたことがとても重要なのだと思った。頭では理解していてもできないことってたくさんあるよね。
- シオンが「泉家留学」をしたように晴太もシオンの下で「森留学」をした。これは相手の立場や考え・状況を理解してあげることにおいてとても重要だと思う。
特に森はたいへん危険な光の妖精の棲家でもあり、シオンの持つ魔剣「グリシュマルド」では応戦できるとしても晴太には応戦の術がない。
それを承知で「森留学」へ挑んだ彼の心意気は立派だと思う。シオンを強く信頼してこそできることなのだろう。
- シオンは説明が上手ではないということだったが、どのように理解し難いのかがいまいちわからなかった。
たしかにテキストに擬音語・擬態語は多く難しい言葉を羅列して遠回りの説明をしているようではあったが、個人的にはそんなに理解し難いものなのかどうか、判別ができなかった。
「理解し難さ」をテキストで明示してもらえるとよかったのかも?
泉六花:
晴太の妹にしてクールな才女。
まずは六花の持つ特異な点を確認した上でシナリオの概要に入ろうと思う。
- 六花には既に両親がなく、晴太にも両親がいない。晴太と六花は義兄妹。
- 晴太には面識のない六花の両親との思い出があるが、一方で六花にはそのあたりの記憶が欠落している。
- 普段は泣いたりなどしないクールな六花だが、人生で3度だけ心の底から大きく泣いたことがある。
六花の父親は大きな遺産を残してこの世を去った。その後に待っているものは……親戚の遺産相続争い。六花を引き取り彼女の親権を得た者にその遺産が渡ることになったのだが、
誰も六花のことを見ていない。見ているのは遺産という即物的なものばかり。それを納得できなかった六花は引き取り先と名乗りを上げる親戚の行く先々で問題行動を繰り返してきた。
ただ遺産を手に入れるだけではなく、六花のことをきちんと見てくれるのかどうか。しかしそれはなかなかにしてかなわぬことだった。上にも書いたように六花は「先々」を転々としていたのだから。
つまり、風変わりで問題行動を起こすだけのようにしか見えない六花は手に余ると誰しもが思っていたのだ。
そして六花は最後に雨音のところへと連れて行かれた。でも六花の行動は同じ。相変わらず問題行動を繰り返し、ついには家出をした。が、六花は雨音のもとに留まることを決意した。その理由は……。
家出して雪原を歩いていると倒れている男の子に遭遇した。どうやら遭難しかけているようだったので家出の際に持ち出してきたたい焼きをひとつあげた。
男の子の名前は「晴太」。どうやら六花が好んでそう呼んだらしい。おそらくその理由は以前に飼っていた猫の名前が「春太」だったから。
でもその猫ももう既にいない……そのときの六花は非常に悲しんで大泣きをした。彼女の人生で初めての体験だった。
やがて2人は雪原の先に家を見つけると入っていった。その中にいたのはおじいさんとおばあさんだったか、おにいさんとおねえさんだったか……。とにかく助かった。
その雪原の家にいる間に六花は花林糖という好物に出逢い、晴太はカラスという人を襲う鳥の存在を知った。その家を出て帰る間際におばあさんだったかおねえさんだったか(?)は不思議な指輪を手渡してくれた。
そして幸か不幸かその指輪が役に立つ瞬間が直後に来てしまった。光の妖精に襲われそうになった六花を守って対峙した晴太が妖精の攻撃を受けて瀕死になった。いや、もう既に遅かったのかもしれない。
六花にとっては絶望的な状況であり、彼女は人生で2度目の「はるた」との決別に大泣きをした。
そして「自分の生命を分けてでもいいから晴太を助けてほしい」と誰にともなく願うと、指輪の魔法なのか、本当に自分の生命が晴太に流れ込んで……晴太は救われた。
そして……生命とともに記憶も流れ込んだのか六花の記憶の半分程度は晴太へと移り、その部分の記憶は六花からは消え去ってしまった。
やがて帰り着いた雨音の自宅。彼女は捜索隊を要請してまで探し出そうと心配していた。そこへ晴太を連れて舞い戻った六花。雨音は当然怒った……捜索隊を。
六花は自分の力でこうしてきちんと戻ってきたというのに、捜索隊は彼女を探し出すこともできずにいったいなにをやっていたのか、と。
そして帰ってきた六花と……初めて逢う晴太も優しく受け留めてくれた。六花は感じた。「この人ならば信じても大丈夫だと思う」と。
時は過ぎ、六花と晴太も成長して晴太が交換留学生としてランドロークへ行くことに決定。
六花は過去の体験からランドロークやゲートや魔法について興味を持ち研究心旺盛だったので、晴太よりも一足先にランドロークへ。
ランドロークでも彼女は実に聡明であった。リコの魔法のアイテムの素材構成を推測でズバリ的中させたり、寮へ侵入した泥棒の素性を状況証拠から言い当てたりと、彼女の頭脳を超えるものはいなかった。
そんな彼女にはもうひとつ抱いていた大切な気持ちがあった。それはかつての雪原で生命を救い、今は兄妹でもある晴太のことだ。
彼女はずっと晴太のことが気になっていたが、今まで兄妹として生きてきたのにその在り方を簡単に恋人に変えることなどできない。
あるきっかけからそのことを強く実感させられた六花は自由にならない自分の人生に泣いた。これで3度目だ。しかも3回とも「はるた」のせいで。
さて、ランドロークの調査のためにこちらへやってきた六花だったが、先に触れた泥棒が魔法関連の書籍を盗んでいったことに憤慨していた。
犯人はどうやら森に住んでいると見当をつけた六花は森の中で不思議な木に出逢う。それは木であり、木をそのまま家にしたようなものであり、しかもどことなく見覚えがあった。
そう、幼少の頃に辿り着いた雪原の家である。その不思議な家に入って少しの時間が経過すると……六花と晴太の2人はどこかへと飛ばされた。外を眺めると一面の銀世界。ここはあのときの雪原の家だった。
そしてやがて男の子と女の子の2人連れがやってきた……。六花は彼等の去り際に幼少の頃から大切にしていた指輪を渡してあげた。そうしないと晴太が救われないから……。
その後六花と晴太はもう一度飛ばされ、元の妖精の森の家へと戻ってきた。
後の調査でわかったことだがあの木は「プリミティブの木」といい、他の森にあるプリミティブの木と地中の根が繋がっておりそれを利用して移動できるという不思議なものだった。
このプリミティブの木を利用する移動手段のことを「プリミティブ リンク」と呼ぶらしい。
- > 六花中将!
- 六花シナリオは他のキャラクターとは少し異なり恋愛への過程の表現がやや希薄である感じがした。どちらかというと六花と晴太の繋がりの謎解きがメインになっているように思える。
- 上記に関連してなのか、エッチシーンへの導入部がやや突発的な感じがした。
- 少しややこしいと思うが、これはタイムパラドックスの絡んだ話である。この作品のカテゴリーに「S・F」を含めた理由のひとつがこれ。そこを理解するためにも六花シナリオを含め、各シナリオは精読しておこう。
そのほうが確実に楽しめるし、シナリオを読み終えたときの感動も深いと思う。
- 六花は他のキャラクターのシナリオでも物語の頭脳中枢として大活躍。六花がいなければおそらくこの作品は成立しないであろう。
現実的な解釈をすれば「ただ単にシナリオ進行に必要不可欠な部分を六花の台詞として喋らせるように作品を仕上げた」ということになるが、
それでは物語の面白味も少し欠けてしまうのでここは六花は実に聡明であるということを素直に受け留めてその点で彼女を評価すべきであろう。
- 六花が非常に頭脳明晰であるように感じられる要因のひとつとして、彼女は疑問に対して思考過程を省略して結論からいきなり述べてしまったり、
さらには結論も飛び越して自分の導き出した結論の感想などから先に述べたりするという彼女の癖が挙げられる。
順序立てて説明されると自然と納得するものも、いきなり疑問からは程遠い答えを提示してそれを根拠付けるように解説する彼女の様には非常に彼女の性格がよく現れている。
表現を変えれば非常によく演出されている。
- 六花の知識と知性は本当にすごい。日本人であるのにもかかわらず、リコの魔法概説程度の内容ならば聞くまでもなく知っているほどだ。リコだって高尚な魔法使いの弟子でかなりの魔法使いだというのに。
- プリミティブの木を利用した移動手段の「プリミティブ・リンク」。作品そのものの名称がこんなところで出てくるとは思わなかった。
- 「六花」は「雪」のこと(詳細は辞書を参照のこと)。飼い猫に付けた名前の「春太」は「雪」が冬でそれに呼応する「春」を取り入れたもの。
「晴太」の「晴」は六花の「雪」と雨音の「雨」に呼応させたもの。「晴太」の命名者は六花。
- 六花のクールさ加減がとてもいい。リコも好きだがどちらかを選択しろと言われたら非常に迷うところだ。現実に本当に六花のような女の子がいたら絶対に友達になる。すぐにはなれないかもしれないが。
でもそれだけの魅力はあると思うな。もっとも六花自身は人付き合いが苦手で友達を作らない人生を選んだようだが……。
それでも友達との「繋がり」の良さをいつかはわかってくれると信じて待つだろうな、自分は。
登場人物全員が一致団結してランドロークの謎へと挑む、この作品の「真の」物語。
まずは「トゥルーシナリオ」という言葉について思ったことを少し注意書き。その後、シナリオの概要へ。
「トゥルー(true)」の意味について。
全員が結集して本格的に謎解きが行われるのはこのシナリオであり、キャラクター個別のシナリオではない。
その意味ではこれこそ「本物の(true)」この作品の中核を成すシナリオだと考えられる。
「true」の反意語は「false(偽)」だから、ティエラに言わせれば他のシナリオは「紛い物」ということになってしまうのかな(苦笑)。
でも各キャラクター個別のシナリオを熟読していないとこの作品の世界観や専門用語が理解できない。
その意味では各キャラクター個別のシナリオはランドロークの事情を理解しておくための予備知識シナリオだったのではないかと思える。
もっとも、それらをクリアしないと「トゥルーシナリオ」には到達できないのだが。
作品によっては「グッドエンド」や「ハッピーエンド」よりも良いエンディング形態として「トゥルーエンド」という言葉を使用することがあるようだが、
この作品にはその考え方を安易に適用しないほうが良いように思われる。
魔法の素質を発現させたゆめは「父親を救いに行く」とだけ言い残してみんなの前から消えてしまった。
だが暫く後にゆめからの意思伝達(?)を聞き、ゆめはまだランドローク内にいて魔法を発動したのではないかという考えに至った。
キリア先生や学園長からの助言を受けた全員はゆめを探しにランドロークの星の中心へと続くと言われる「回廊」へ向かうことを決意。しかし、学園長から聞かされた事柄は衝撃的なものばかりだった。
かつてランドロークの人口の7割を滅ぼしたという700年前の大惨事のこと。このランドロークという星自体がひとつの生命体であるということ。
そしてゆめはその星の子だということ。回廊は森の奥にあると言われているのでまずはトリシアの森へ出発。
そして回廊探索をしては定期的にリコのゲート魔法で自宅へと戻り、探索結果を六花が分析するという日々。
その結果、星の表面と内部では時間の経つ速度が異なることがわかり、みんなには突然タイムリミットが宣言されることになる。
そしてやがてゆめの残したと思われるチョコレートと父親の墓碑らしき痕跡を発見、ゆめにメッセージとイメージを送り続けると、やがて星の中心に到着。
そこにいたのは小さな姿のゆめそのものだったが……実は彼女こそこの星――ランドローク――そのものだった。
そこで明かされる真実の数々。
- 700年前の大惨事は星の免疫耐性によるもの。つまり星の内部に異物が侵入しようとしたため、人間と同じように免疫能力が働いて異物排斥をしようとした結果。
- 光の妖精は地中内部のランドローク自身が地上の情報を得るための端末。同じようにゆめを作り放つが、途中で人間(ゆめの父親)に拾われた。
- その後に作られたシオンはゆめの護衛役。
- さらにその後に作られたハルシオンはシオンの補佐役。
- そして今ゆめを呼び戻したのはランドローク自身がゆめから情報を得るため。そのためにはゆめは星と融合されてしまう。
しかし、星とゆめとの融合を簡単に認めるわけにはいかなかった。晴太たちはゆめを助けに来たのだから。星としてのゆめではなく1人の女の子としてのゆめを。
小さいゆめの姿のランドロークはひとまず下がり、晴太たちは自分たちで星の中核に入ってしまったゆめを助け出すことに。その作戦と過程はこうだ。
- 1.六花:まずは六花が魔法の指輪で古文書を解読し、そのイメージをリコへ伝達する。
- 2.リコ:六花から受け取ったイメージを改めて詠唱し、リコが古から伝わる民生魔法における防御魔法を発動する。
- 3.ティエラ:味方が防御圏内にいるうちにティエラが超弩級の上級魔法で星の中心核を叩く。
- 4.シオン:ティエラが魔法で叩いた場所をねらってシオンが魔剣グリシュマルドで中心核に斬りかかる。
- 5.晴太:シオンのグリシュマルドによりできた中心核の裂け目へ晴太が一気に飛び込み、中のゆめを説得して救い出す。
誰か1人が欠けても成功し得ない、みんなの長所を最大限に活用した作戦だった。作戦は……成功。晴太は無事にゆめを救い出した。ゆめを救い出すための晴太の作戦は手作りのレスキューチョコレートだった。
そう、最初に晴太がランドロークへ行くときに帯広の雪原で晴太がゆめにそうしてもらったように……。
- 素晴らしい。まずはそれだけ。他に書きようがない。
- 素晴らしさを少し紐解いて述べてみる。全員に役割があり、それぞれがその役割を果たして一致団結することで初めて目的を達成できるということ。
これは全員がひとつに繋がること――作品名の「プリミティブ リンク」の「リンク」――に呼応している。
この作品では「繋がる」=「絆」=「リンク」に関する記述を随所で見かけるが、それを最も強くプレイヤーに訴えかけているのがこのシーンだ。
それに、「全員に役割があり、それぞれが能力を発揮して協力することで成功を手にする」という物語は個人的に非常に切望していたものであり、その点でさらに感動を味わうことができた。
- ランドロークの星の表面と星の内部(中心付近)では時間の経過速度が大幅に異なる。これは相対性理論とブラックホールの概念を題材にしたものかな?
シナリオに緊迫感を与える要素としては役立っていたように思える。また作品のカテゴリーに「S・F」を付加した要素のひとつがこれである。
- ファレス先生の活躍の場があまりなかったのが非常に惜しい。最後にファレス先生から手渡された爆弾は晴太が作戦5.の直前で使うという設定であればなおのこと良かった。
つまり星の中心核への最後の打撃を晴太自身が爆弾の投擲によって与え、爆煙の中、開いた星の中心核の中へ晴太が飛び込む……ということだ。
まぁ、ファレス先生は陰の功労者だからそれを最後まで貫き通すのも良かったんだけれど。
- ランドローク語で「シオン」は「4」のこと。「ハル」は「10」のこと。後者はこの作品内においてどんな意味があったんだろう? 「ハルシオン」以外に「晴太」や「春野」とも関係があるのかな?
- ハルシオンの出番がいまいち少なかったが……仕方がないのかな。
- 六花の台詞、
> できることとすることは別だから
がとても格好いいというか気に入った。これは普段から自分のお気に入りのフレーズなのだ。こんなところで六花から聞けるとはちょっと感激。
- 家族関係や友人関係・信頼関係の不安定な者たちが「絆(link)」というものを直接の体験で感じるのがこの作品のコンセプトだと思う。
みんなはプリミティブの木のように根でひとつに繋がっているような不思議な幸せ――プリミティブ リンク――を体感できたのだろうか。
- いやいや、でもしっかり理解しようとすると長い作品だった。そしてレビューがまた長い(苦笑)。ちょっと疲れたけれど、大満足だよ。みんなにもぜひプレイしてもらいたい。
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