全体レビュー。
このゲームを手に取った理由は、
「絶対幸福量保存の法則」
これと同じ考えを幼い頃(いや、もっと大きかったかな)自分自身が持っていたから。それでこんなコンセプトのゲームが発売されることに驚いて……というのが最大の理由。
で、実態は……なかなか評価の難しいゲームだと思う。答えのない疑問を投げかけてみたり(これはいいと思う)、的を射たことを言っていたり、でも逆に製品紹介の文句とは微妙に不一致だったりもする。
このゲームの基本コンセプトは「絶対幸福量保存の法則」――この世界で一定量の「幸せ」が人と人との間を行き来することで幸せと不幸せがみんなに訪れる――というものだが、
各キャラクターによってシナリオも「幸せ」の受け留め方も異なっている。「絶対幸福量保存の法則」というちょっと異色な考え方とその受け留め方の差異、それがこのゲームの魅力だろう。
それが気になった人は手に取ってみるといいかもしれない。おそらく人によって評価が大きく分かれるゲームだと思う。
キャラクター別レビュー。
謎めいた幼なじみ。
事の発端となった、
> 「あたし達がいっぱい幸せになる為には、たくさんの人たちが不幸になっちゃうんだ。」
という台詞を言った人。しかしこの言葉はいつの間にかこのようにすり替わっていた。
> 「あたし達がいっぱい幸せになる為には、たくさんの人たちが不幸にならなきゃいけないんだ。」
何故そのようにすり替わってしまったのか。それを香津美は「小さい頃のことだから間違って受け留めちゃったのかな?」と安易に予想する。
香津美は美紗が力を発動しないようにガードしていたが、結局美紗は街中から不幸を集めてその代償に自分と武流(主人公)が幸せになろうとする。
これは美紗のもうひとつの信条「愛の前にはすべてが許される」によるもので、「絶対幸福量保存の法則」を「愛の前にはすべてが許される」という思想で行使するとどうなるか、
というわけである。幸せは人から奪って手に入れるものじゃない、自分たちで見つけ出すものだということでこのシナリオは閉じる。
- 美紗シナリオでは「絶対幸福量保存の法則」の受け留め方と、自らがそれをコントロールする力を持つことを知った美紗の行動が語られる。香津美シナリオと並んで読み応えのあるシナリオだ。
コントロールというのは好き勝手思い通りに使いこなすということ。陽子シナリオのところで書くコントロールとは意味が違うので注意。
- > 「たくさんの人たちが不幸にならなきゃいけないんだ」
これはゲーム情報公開当初からかなり気になった言葉だが、残念ながら美紗の頭の中でこの言葉が擦り替わった理由は明確にされていなかった。
- 人が倒れたり、不幸な幻覚を見たりというダイレクトな表現は良かったと思う。
人と人との間で幸福の値が移動したことがわかりやすい。あとは周りの人が不幸になるにつれて少しずつ美紗が幸せ(?)になってゆくシーンが描かれているともっと説得力もあって印象に残りやすかったと思う。
- 立ち絵で右腕と左腕の長さが違ったのが妙に気になった。
外村香津美:
美紗の能力を知っていて、それが発動しないようにガードしている女の子。
美紗が覚えた例の言葉は香津美の父親が代表を務める組織の「教え」だった。そして香津美は美紗の「幻覚を見せる力」を「直観像拡大投射能力」と説明する。
それは自分の心にある映像や感情が周囲の人に向けて発射されるという力であり、いきなり発射された相手はそれを受け留め切れずに倒れたり失神したりする。
香津美はなかなか武流に心を許さないが、街中を徘徊する美紗を探すシーンでは苦しいながらも最後まで武流と一緒に行動することを選んだ。
- 内容は美紗シナリオと殆ど同じだが、同じ内容でも香津美視点の描写や武流と香津美が一緒に行動することが多い。
- 最後の、
> 「みんなで愛しても、一人ずつで愛しても、たいして変わりはない」
……これはどうかな~。「個別の愛(each to each)の総和=みんなからみんなへの愛(all to all)」というとこれも表現がまずいかもしれないけれど、
なんだかちょっと納得し難いものがあった。
- 美紗と香津美の絡みや武流を含めた3人のエッチシーンが見られる。
- 「超常現象やニューサイエンスには否定的」というキャラクター紹介だが、それほど強く感じなかった。
- なんだかんだといろいろあるが、個人的に香津美は一番好きなキャラクター。友達になりたいとしたらこの子だな。
若村恭子:
美紗と香津美を要注意人物として敵対視している、学校の自治会長。
自治会長というとわかりにくいけど、早い話が風紀委員+生徒会長。武流は短く委員長と呼んでいる。
自分の理解できない事象が大嫌いで、美紗の不思議な力や香津美の行動を活動家の一派(というかなんというか…)と受け留めていて、武流には時代遅れだと言われる始末。
そんな彼女が「自分の管理主義的行動は現状維持はしても前へは進めない」ことに気づき、美紗と和解するために話し合いを決心する(話し合いとは少し違うような気もするが)。
その説得の要点は「他人の不幸で得た美紗の幸せを武流は喜んでくれない」というものであり、あの状態の美紗に対してうまい説明の仕方だと思う。
また恭子本人のエピソードとして、今まで独りで頑張っていた恭子が武流(という別の人)と一緒に動くというものがある。
その結果快活で楽しい生活を送る恭子に変身するわけだが、その原因は美紗だったりするわけだから人生何が不幸せで何が幸せになるか全くわかったものじゃない。
- 美紗のおかげで恭子が幸せになることもある……それはそれでまた事実めいていていいとも思ったが、もう少し話数を使って理解し合う過程が書かれていても悪くなかったかも。
- 問題はラストシーン。武流が恭子と美紗の両方と付き合うわけだが、恭子が言うには、
> 「同じ男性を好きなものとして、美紗に対しては親近感を持っている」
……つまり、「同じゲームを好きな人同士が仲間であるように、同じ異性を好きな人同士だって仲間だ」というわけ。一般に受け入れられるかな~、これ。
なお、個人的には以前から同じ考えを持っていたので問題なし。
- 恭子は他のキャラクターとの共通点が多い。
- 親と仲が良くない(美紗)
- 親が活動家(香津美)
- 独りで頑張っている(夕貴)
- 理解できないものが大嫌い(陽子)
などなど。でもその繋がりがあまり有効に活かされていないのが残念だった。
御厨夕貴:
ナイスバディにコンプレックスを持つ才女、先輩、恭子の大親友。
恭子と同じく、かなり独りで頑張っている。故に(?)恭子の大親友。
自分のことを容姿や成績でしか見てくれないことが嫌になっていて、武流も最初はそうだったが、美紗を巡るトラブルを相談するうちに次第にそれが解けて慕うようになっていく。
夕貴は「自分が普通とは違う」ことがコンプレックスで、そこを見られて嫌われることに臆病になっている。
武流との間柄では普通と違うところを見ないのではなく、そこを認め合うことでお互いを理解するようになった。
接近中の夕貴と武流を見た美紗は嘘をついて身を引こうとするが、
これは逆転の発想。「自分が不幸になれば他の人を幸せにできる」と考えた美紗なりの「絶対幸福量保存の法則」の精一杯の使い方だった。
- 美紗の行動が特徴的。他のシナリオでは自分と武流の幸せばかりを考えている美紗が、夕貴と武流のために自分の幸せをあげようとした。
「絶対幸福量保存の法則」の受け留め方の差異を述べるという点でこれは必要不可欠なシナリオだと思う。
そしてその結果は、立場こそ入れ替わるが恭子シナリオと同じで「美紗の不幸で得た自分の幸せを武流は喜べない」という結論となる。
超自然的なものや非科学的なものが怖い数学教師。
陽子は前に別れた彼氏が武流に似ているので敬遠していた(だが、実は振られたと思ったこと自体が勘違い)。でもやがて(元?)彼氏似の武流に興味を持ち、美紗と武流の関係を知った陽子は武流を手に入れようとする。
一方、美紗の振る舞いはというと、これもまた独特。美紗は自分の力に気がついていたが悪用はせず、美紗をしっかりとガードしていた香津美の考えは勇み足だった。
「自分が幸せをつかめるためにこの力をコントロールできるようになりたい」という、とても前向きな考え方をしている美紗は外国へ治療へ行く決意をする。
それはずっと武流と一緒にささやかに過ごすならば、この力は幸せを掴むのには邪魔だと考えた美紗の行動だった。
- 陽子と美紗のドタバタがあったり、6人の中で最も軽い内容のシナリオ。陽子を最初にクリアしたときは「こんなに軽いゲームなのか?」と誤解しそうになった。
いや、メーカーさんのコメントでも「実は軽いゲームだ」というようなお話も聞いてはいたのですが……。
- コントロールというのは自分の思い通りに扱い放題という意味ではなく、暴発しないように自制できるようになるということ。
真の意味でのコントロール。美紗シナリオのところで書くコントロールとは意味が違うので注意。
- 自分の持つ力の解決にとても前向きで積極的な美紗が逆に少しおもしろかった……というか、違和感。
- 外国へ行くことになった美紗のお見送り会が行われるなどのほのぼのした空間も見られたりして、「絶対幸福量保存の法則」からはやや縁遠いサイドストーリーのようにも見えた。
最後の陽子とのやり取りを見ているとそれもちょっと怪しくなってくるけれど。
- 個人的には「科学が全てではない、むしろ非科学がなくては宇宙は説明できない」と思っているので、この陽子みたいなタイプは苦手。
- そういえば取扱説明書にある「幸福4次方程式」は陽子シナリオで出てくるはずのものなのか? 見覚えがないんだが……。
多田敦子:
武流の友人、多田信一郎の一風変わった妹。
自分を信一郎の妹ではなくて敦子単体としての女の子というように見てほしいと願う子。
他人から自分のことを見てもらうときにステータスではなくて自分そのものを見てほしいという願望については夕貴とよく似ていて、夕貴のときと同じくそれは武流の役目になってくる。
美紗は自分や香津美や武流のことを信一郎に相談するうちに自分の力を知って信一郎と仲良くなり、幼い頃に交わしたずっと武流と一緒にいようという「約束」に反して武流から離れていく。
- なんといっても美紗が武流から離れていくこと、ここがこのシナリオ最大のポイント。他とは決定的に異なる。
- もうひとつのポイントは「幸せ」が2つ描写されていること。
- ステータスではなくて自分そのものを見てもらえるという、敦子の幸せの形。
- 武流は敦子と、美紗は信一郎と結ばれることでみんなが幸せになるという幸せの形。
この物語の基盤になる「武流と一緒に幸せになる」という約束を覆し、みんなが幸せになるという意外な道を選んだ。
おもしろいんだが、美紗の直感像拡大投射能力が殆ど使われていないからちょっとメインテーマから離れているかも?
この作品のシナリオはそれぞれがお互いにパラレルワールドであり、様々な幸せの形を追究している。だが、せっかくコンセプトとしてはおもしろいのにシナリオが薄いというのは残念だ。
結局のところ、このシナリオの世界において「絶対幸福量保存の法則」が真実なのかどうかは明かされない。
美紗に「直観像拡大投射能力」があるからといって、本当にそれは幸せ獲得の役に立つのだろうか? その点は惜しかったところだが、各キャラクター別のシナリオで語られる結論にはおもしろいものがある、
と個人的には思っている。
ところで、「受け留め方次第で人とその幸せの形は大きく変わり得る」ということがハッキリと言葉で表現されているのは、
実はこのゲーム本体ではなく……体験版である。この体験版、何気に貴重なのではないだろうか?
余談(このゲームとは無関係)。
「能力総和一定の法則」というものを考えたことがある。それぞれの人に備わっている能力という能力を数値に換算して全て合計したら誰でも同じ値になるんじゃないか、という考え。
ここでいう「能力」とは学力や体力はもちろん、優しさ、決断力、たくさんの友達を得る人柄、色彩感覚、縁の下の力持ち、処世術……なんでも含めてありとあらゆる「能力」。その合計は誰でも同じかもしれない、と。
学力や体力だけで人を評価したら優劣があるかもしれない。でも人を評価するときには備わっている様々な「能力」を見落としたくないな、と思う。そんなゲームもできないかな~。
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